【考察】ライオンズの投手の不調はスカウティングの問題なのかをデータで検証する
以下一部敬称略
前回の記事(https://l-data-daily.com/?p=381)ではここ数年のドラフト指名が理論的だったかどうかを見ていきました。
そこでは
投 手:理論的にはよかったがスカウトor育成がよくなかった
捕 手:理論的で実際にも大きな強みに
内野手:理論的な指名ができていたが近年はできていない
外野手:理論的な指名ができておらず高校生の指名が多すぎた
と結論付けました。
近年の投手の不調を思えばそもそも変な指名をしていたと思われるかもしれません。
しかし高校生・大学生・社会人選手のそれぞれの獲得の仕方はそう間違ってはいなかったのです。
ただし前回の記事ではあくまでそれぞれの属性の選手の獲得の仕方に問題がなかったというだけで獲得した選手個人個人については分析していませんでした。
前回記事を書いたときもそうでしたがライオンズファンの中では「投げっぷり」を重視しすぎるのが悪いのではないかという風潮があるように思います。
そこで今回の記事ではライオンズがあまり成功していない大学生・社会人投手の指名傾向を見ていきます。
そしてさらにうまい指名ができている他球団と比べどんな違いがあるのかを検証をし
スカウティングに問題がないか(「投げっぷり」が諸悪の根源なのか)
をデータ的に検証したいと思います。
分析の仕方
まずは始めに分析の手法についてお話しします。
興味ないよという方は次のチャプターまで飛ばしてください。
①分析対象のデータ
分析対象とするデータは奪三振率と与四球率、そしてそれらから分かるK/BBとします。
理由としては先行研究で野手の分析をされた方がいらっしゃるのです(https://note.com/baseball_namiki/n/n79dc69456ede)が
そこでは
長打力を示すISO
三振率であるK%
四球率であるBB%
が活躍するための重要な指標としていました。
これらの指標はプロでも年間度相関が強くその選手本来の実力を反映している指標と言えます。
(逆に打率などはほぼ関与しない)
そこで逆説的に投手でも年間度相関が強い指標なら大学生・社会人からプロに行くときもその選手の実力を反映していると考えました。
投手で年間度相関が高い指標(r=0.50以上)は
奪三振率であるK%
与四球率であるBB%
ゴロの割合
の3種でした。(デルタ・ベースボール・レポート2(https://www.amazon.co.jp/dp/B095342Z9S/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1)より)
データの引用元の都合上正確なK%やBB%、それにゴロの割合はわかりませんがその代わりとして
奪三振率 K/9
与四球率 BB/9
K/BB
を分析対象のデータとしました。
②データ元
データはドラフトレポート(https://draftrepo.blog.fc2.com/)さんで過去2年分のデータがある投手とします。
また、対象とする選手は過去2年で40イニング以上投げた選手としています。
他にデータ対象はデータの都合上2013年からの投手に限定しています。
過去2年分な理由は
①1年だけ覚醒したようなバイアスを除く
②40イニングをクリアする選手を増やすため
です
40イニングの根拠としてはこちらの記事(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60896360X20C20A6000000/)で
投手の与四球率の実力を測るためのサンプル打者数が170であったことを根拠としています。
(奪三振の実力を測るにはもう少し少なくてよい)
プロにおいて1イニングあたりに許すランナーは概ね1.30人とされています。
そのため概ね3イニング投げれば
アウト :3 × 3 = 9
ランナー:1.3 ×3 ≒ 4
となり13人の打者を相手する計算になります。
プロに入るような上位の投手は特に優秀な投手が多いためランナーを許す割合はもう少し低いと思われる1.20とします。
すると大体5イニングで
アウト :3 × 5 = 15
ランナー:1.2 ×5 ≒ 6
となり21人の打者を相手する計算になります。
170 ÷ 21 ≒ 8 なので
8 × 5 = 40
ということで40イニングを根拠としています。
(データはドラフトレポートさんから私がポチポチ手入力したものなので間違っている可能性は多分にあります
なのであくまで参考にお願いします)
③うまい指名ができている他球団
うまい指名ができている他球団は以前のドラフト理論の記事で分析した時に平均よりも大学生・社会人投手でWARを稼いでいた5球団としました。
対象は
広島
日本ハム
阪神
ソフトバンク
横浜
です。
(全球団は手間がかかるので5球団で許してクレメンス)
これらの球団の指名傾向とライオンズの指名傾向を比較していきます。
ライオンズのスカウティングと他球団のスカウティングの比較
それでは前のチャプターで説明したようにライオンズが指名した大学生・社会人投手の過去2年分の奪三振率と与四球率、それにK/BBを見ていきます。
ライオンズで上記の基準をクリアしていた選手は11人いました。
そして彼らの成績は以下のようでした。
ドラフト順位 | 投手名 | K/BB | 奪三振率 | 与四球率 |
4位 | 粟津 凱士 | 5.71 | 10.19 | 1.58 |
1位 | 多和田 真三郎 | 4.60 | 11.18 | 1.96 |
1位 | 松本 航 | 4.54 | 8.88 | 1.98 |
5位 | 与座 海人 | 4.19 | 6.30 | 2.15 |
2位 | 浜屋 将太 | 3.94 | 9.95 | 2.29 |
6位 | 本田 圭佑 | 3.29 | 8.84 | 2.74 |
1位 | 宮川 哲 | 3.85 | 10.34 | 2.34 |
1位 | 斉藤 大将 | 2.33 | 8.54 | 3.86 |
6位 | 田村 伊知郎 | 2.23 | 6.80 | 4.03 |
2位 | 佐野 泰雄 | 2.12 | 7.86 | 4.24 |
2位 | 中塚 駿太 | 1.54 | 6.28 | 5.85 |
細かい成績を見ていても傾向はわからないのでK/BB・奪三振率と与四球率をそれぞれの区分けで分けます。
するとそれぞれ以下のようになりました。
K/BB(西武) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 1 | 9% | 10点台以上 | 3 | 27% | 1点台以下 | 3 | 27% |
4点台 | 3 | 27% | 9点台 | 1 | 9% | 2点台 | 4 | 36% |
3点台 | 3 | 27% | 8点台 | 3 | 27% | 3点台 | 1 | 9% |
2点台 | 3 | 27% | 7点台 | 1 | 9% | 4点台 | 2 | 18% |
1点台以下 | 1 | 9% | 6点台以下 | 3 | 27% | 5点台以上 | 1 | 9% |
なんとなく「投げっぷり」を意識している割には奪三振率が低いような気がしますし、与四球率もとんでもないノーコンの選手を獲得することも少ないようです。
しかしこれだけだとよくわからないので先ほど挙げた大学生・社会人投手の指名がうまい5球団の指名と比較します。
一人一人のデータは53人分のデータがあるので割愛し、上記のK/BB・奪三振率と与四球率のそれぞれの区分けを見ていきます。
K/BB(5球団) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 3 | 6% | 10点台以上 | 9 | 17% | 1点台以下 | 6 | 11% |
4点台 | 9 | 17% | 9点台 | 11 | 21% | 2点台 | 22 | 42% |
3点台 | 16 | 30% | 8点台 | 8 | 15% | 3点台 | 14 | 26% |
2点台 | 12 | 23% | 7点台 | 15 | 28% | 4点台 | 8 | 15% |
1点台以下 | 13 | 25% | 6点台以下 | 10 | 19% | 5点台以上 | 3 | 6% |
こちらがその区分けデータになります。
K/BBは2点台の選手を獲得することは多くとも1点台以下の投手を指名することは少なく、4点台以上のかなり抜けた投手を指名する傾向があることがわかります。
また、投げっぷりというワードが出てくるわりには奪三振率はそこまで高くない投手を多く指名するという傾向もあることもいえるでしょう。
与四球率はほとんど5球団と割合が同じでありこちらにはわかりやすい傾向は存在しませんでした。
そのためライオンズの投手が不調な理由をこのデータからつけるとするなら、
三振をそこまで奪えない投手を多く獲得しているからということができそうですが
制球が悪い投手を多く指名しているためということは言えなさそうです。
ただしこれらのデータは全体指名のデータであり、やり玉に挙がりやすいいわゆる「ドラフト2位でロマン枠を獲得する」というような指名については検証できていません。
そこで次の項目ではドラフト最上位(2位まで)の指名の傾向について見ていきます。
ドラフト上位の指名
まずは同じようにライオンズが指名したい選手の K/BB・奪三振率と与四球率のそれぞれの区分けについて見ていきましょう。以下のようになります。
K/BB(L・最上位) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 0 | 0% | 10点台以上 | 2 | 29% | 1点台以下 | 2 | 29% |
4点台 | 2 | 29% | 9点台 | 1 | 14% | 2点台 | 2 | 29% |
3点台 | 2 | 29% | 8点台 | 2 | 29% | 3点台 | 1 | 14% |
2点台 | 2 | 29% | 7点台 | 1 | 14% | 4点台 | 1 | 14% |
1点台以下 | 1 | 14% | 6点台以下 | 1 | 14% | 5点台以上 | 1 | 14% |
対象選手が7人になっただけなので11人を対象にした時と比べても大差はありません。
しかし5球団と比べると大きな違いがありました。
K/BB(5・最上位) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 3 | 9% | 10点台以上 | 7 | 21% | 1点台以下 | 6 | 18% |
4点台 | 8 | 24% | 9点台 | 9 | 26% | 2点台 | 18 | 53% |
3点台 | 14 | 41% | 8点台 | 6 | 18% | 3点台 | 4 | 12% |
2点台 | 4 | 12% | 7点台 | 10 | 29% | 4点台 | 5 | 15% |
1点台以下 | 5 | 15% | 6点台以下 | 2 | 6% | 5点台以上 | 1 | 3% |
5球団の方が明らかにK/BBがよい選手を獲得しているのです。
K/BBが3点台以上の選手は3位までにほとんど指名し、2点台以下の選手は左腕のロマン枠(阪神・高橋選手、横浜・浜口選手)や特殊な選手(ソフトバンク・高橋礼選手)以外はあまり指名しないのです。
そして2点台以下の選手は下位で獲得するのです。
対してライオンズは上位ではK/BBがそこまでよくない選手(2点台以下)を多く指名し、下位でよいK/BBの選手を指名しています。
また奪三振率に関してはほとんど似た傾向ですが与四球率は違います。
5球団がその指名の7割を2点台以下の選手に割り当て3点台以上の選手を指名することが少ない(下位で指名する)のに対しライオンズは上位で3点台以上の選手を指名しているのです。
以下3位以下の指名の傾向比較
K/BB (L・最上位) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 0 | 0% | 10点台以上 | 2 | 29% | 1点台以下 | 2 | 29% |
4点台 | 2 | 29% | 9点台 | 1 | 14% | 2点台 | 2 | 29% |
3点台 | 2 | 29% | 8点台 | 2 | 29% | 3点台 | 1 | 14% |
2点台 | 2 | 29% | 7点台 | 1 | 14% | 4点台 | 1 | 14% |
1点台以下 | 1 | 14% | 6点台以下 | 1 | 14% | 5点台以上 | 1 | 14% |
K/BB(L・3位以下) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 1 | 25% | 10点台以上 | 1 | 25% | 1点台以下 | 1 | 25% |
4点台 | 1 | 25% | 9点台 | 0 | 0% | 2点台 | 2 | 50% |
3点台 | 1 | 25% | 8点台 | 1 | 25% | 3点台 | 0 | 0% |
2点台 | 1 | 25% | 7点台 | 0 | 0% | 4点台 | 1 | 25% |
1点台以下 | 0 | 0% | 6点台以下 | 2 | 50% | 5点台以上 | 0 | 0% |
K/BB(5・最上位) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 3 | 10% | 10点台以上 | 7 | 21% | 1点台以下 | 6 | 18% |
4点台 | 7 | 24% | 9点台 | 9 | 26% | 2点台 | 18 | 53% |
3点台 | 11 | 38% | 8点台 | 6 | 18% | 3点台 | 4 | 12% |
2点台 | 3 | 10% | 7点台 | 10 | 29% | 4点台 | 5 | 15% |
1点台以下 | 5 | 17% | 6点台以下 | 2 | 6% | 5点台以上 | 1 | 3% |
K/BB(5・3位以下) | 人数 | 割合 | 奪三振率 | 人数 | 割合 | 与四球率 | 人数 | 割合 |
5点台以上 | 0 | 0% | 10点台以上 | 2 | 11% | 1点台以下 | 0 | 0% |
4点台 | 2 | 8% | 9点台 | 2 | 11% | 2点台 | 4 | 21% |
3点台 | 5 | 21% | 8点台 | 2 | 11% | 3点台 | 10 | 53% |
2点台 | 9 | 38% | 7点台 | 5 | 26% | 4点台 | 3 | 16% |
1点台以下 | 8 | 33% | 6点台以下 | 8 | 42% | 5点台以上 | 2 | 11% |
指名のプロセス
上記の比較からドラフトのうまい5球団とライオンズの指名傾向の違いが判りました。
ライオンズは
上位:与四球率の高い投手を獲得する(ロマン)
下位:制球の良い完成度の高い投手を取る(K/BBがよい)
ドラフトうまい球団は
上位:完成度の高い選手を取る(K/BBがよい)
下位:与四球率が比較的高いロマン枠の投手を獲得する
という感じで全体で見れば同じような割合になるものの、指名のプロセスが違うのです。
私が手打ちしたデータだけで結論付けるのはおこがましいですが、今の投手の不調の要因にはスカウティングに問題があるといえる結果のように見えます。
少なくとも投手の指名に効果が出ていないのは事実なので指名のプロセスはドラフトうまい球団に合わせていく方がいいように思えます。
さらに個人的な見解を述べさせてもらうとライオンズの指名よりもドラフトうまい球団の指名プロセスの方が理にかなっているように思えます。
なぜなら完成度の高い投手だからと言ってプロでも通用するほどの球威を持っているかどうかは限らないからです。
ライオンズが下位で獲得する完成度の高い投手は他の球団の、言い方は悪いですが余ってしまった投手であり出力が物足りない投手である可能性が高いでしょう。
そのような投手を獲得したとしてもプロでは器用貧乏な選手になりかねない危険があります。
逆に完成度の低い選手は上位で獲得しないというのも理にかなっています。
プロでも通用するような完成度の高い投手は他の球団からの評価も高く、下位まで残っている可能性は低いです。
対して完成度の低い投手はあまり他球団からの評価も高くなく下位まで残るケースも存在します。
(例:阪神・青柳・岩崎選手、日本ハム・高梨選手など)
なのでしっかり戦力になりやすい完成度の高い投手は上位で他球団にとられる前に確保し、下位指名では変に完成度の高い投手を指名するよりプロでも通用する可能性のある出力を持つ選手を指名するという指名のプロセスは理にかなっていると思われます。
以下雑な指名のプロセスの図
まとめ
今回の記事をまとめると
①ライオンズの指名全体はドラフトがうまい球団と比べてもそこまで差がない
②しかし上位指名と下位指名には大きな差がある
③指名のプロセスの違いが今の投手の不調を作ってしまっている可能性がある
というところになります。
繰り返しになりますがデータは12球団のうちの半分ですし全部データは手打ちなので必ずどこかしらのデータは間違っていると思われます。
ただある程度ライオンズの指名とドラフトのうまい球団との指名の違いは示すことができたかなと思います。
何か今回の記事で思うところがあったなら感想などをいただけたらと思います。
次回はこの結果からライオンズが指名したい選手について大学生・社会人投手をさらに練りこんで記事にしたいと思います。
もしよければ楽しみにしてくださいね。
それでは(^O^)/バイバーイ
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